2010年10月9日土曜日

皿の中のミクロコスモス

「見立て」とか「趣向」といった話です。
まあ、こういうのは好きな人は好きなのですね。知的な遊戯という側面が強い。世界史的にも希有な程平和な時代が長く続き、庶民文化が花開いた江戸期には殊の外好まれたらしい。
嫌いなお方はね、「こじつけ」とか「わざとらしい」とかでとことんお嫌いになるのですが、まあ人好きずきということで。

当店イチオシ「蓮如蕎麦」であります。山科新名物への道をまっしぐらに進むその途上にあるのです。前途遼遠ですが…。

京都東山に生まれ本願寺8世を継いだ蓮如上人は1471年越前国吉崎に吉崎御坊を建立、北陸布教の拠点とします。その後1483年には山科本願寺を完成させます。盛時は「寺中は広大無辺、荘厳ただ仏の国の如し」と言われた一大宗教都市を創り上げ、1499年に山科の地で入滅。
蓮如蕎麦はこうした上人の事績にちなんで作ったもの。

細打ちの麺はいかにもたおやかで京風を思わせるので、上人の出身である京都の象徴。
トッピングは上人の北陸布教の故事を踏まえ、また店主の越前蕎麦へのリスペクトを表して、越前そば風に大根おろし、青ネギ、花鰹。さらに揚げたそば米(蕎麦の実の殻をとり茹でたもの)を散らしています。

ネギは大地の恵み、青々とした福井平野の豊かな実りを象徴。
花鰹は逆巻く日本海の荒波。(鰹節は太平洋だろうが、というツッコミは無しでお願いします。)
真っ白な大根おろしは、北陸の雪。
かくて上人の生涯を彩る京都と越前が皿の上に現出せしめられる。
で、蕎麦の実は?
ちょっとね、仏様の螺髪(らほつ)に似ているのですね。従って蕎麦の実は仏様(真宗ですから阿弥陀様ですね)。
 では、かけつゆを何と見る。え~、かけつゆは~、と。黒いなあ。黒い。うん、整いました。つゆは墨染めの衣の象徴です。
京と越前の風物を阿弥陀様が穏やかに見守りそれら一切を墨染め衣の上人の生涯がひとつにまとめ上げる。
と、まあ、そうした御趣向です。

五木寛之さん、食べにきはらへんかなあ…
『風に吹かれて』は大好きな本のひとつだったのです。

んじゃまた
亭主敬白