2013年10月20日日曜日

「嘗(な)め」の慕情

京大教授で中国文学の碩学、青木正児(まさる)先生は大の酒好きで、「名物学」に基づくグルメ随筆『華国風味』には「陶然亭」なる居酒屋を事細かく愛情込めて活写した一篇があります。
そこには酒のアテの理想型みたいなもんが山ほどメニュー化されてて、そのひとつに、なめ味噌が出てきます。実に美味そう。
徒然草の北条時頼の逸話にもありましたが、酒のアテに味噌というのは由緒正しく、なかなか渋い感じで大人の雰囲気漂ってますよね。貧乏くさい飲み助親父っぽい、と誹る向きもあるかもしれませんが、燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや、であります。酒飲みは欣然として味噌で飲むものなのであります。
まあなんにせよ、ご存じの通り味噌は発酵食品でありますから、美味いに決まってますよね。
んで、蕎麦屋の酒のアテとして、このなめ味噌はけっこううってつけであります。
蕎麦屋酒というのは最後、お蕎麦で締めるのが前提でありますから、あんまりお腹ぱんぱんになって蕎麦を味わえない状況に至らしむるアテはペケ、なわけですね。そおゆう文脈の中で俄然注目を集めるのが「味噌」というわけで、はい。

当店も開店当初から「蕎麦焼き味噌」を提供しております。これは粒白味噌にあれこれの具材を混ぜ込んでしゃもじに附けて火で香ばしく炙ったもの。おかげさまで好評をいただいておりますが、江戸の蕎麦屋にはこれとはまた別のなめ味噌、「蕎麦味噌」というものがあります。ワタクシも以前、神田のやぶでいただいたことがあります。

実は先日、秋田の友人から「ピーマン味噌」というのをいただきまして、これがまたたいそう美味でありました。味噌に刻んだピーマン及び砂糖等をいれてとろ火で煮ながら練ってつくるんだそうな。自分でなめ、お客さんにも付き出しでだしてたら好評のウチにあっちう間になくなってまいまして。また欲しいな、作ろかな、と思ったんですが、まあ、せっかくですから蕎麦屋らしく蕎麦味噌にしよかな、と。

んで、つくりました。えへへ
赤味噌に酒、砂糖。蕎麦の実の丸抜きを炒ったのと、白ごまの炒ったのと、善光寺の八幡屋磯五郎さんの一味も練り込んで。3時間ほど火のそばに付きっきりでありました。努力の甲斐あって、ワタクシのお気に入り純米大吟醸「出羽桜」が進むこと進むこと。
ちなみに酒器は、美山竹工房さん(南丹市美山 山科の大塚に直売所あり)の燻し竹のぐい飲み。

そゆわけで、お酒注文しはったらもれなく自家製蕎麦味噌、付いてます。
人生なめずに、蕎麦味噌なめるのが吉かと。

んじゃまた
亭主敬白