当店のスタメンは二八、生粉打ち、てんぷらせいろ、蓮如蕎麦(越前風おろしそば)と、基本的に冷たい麺ばかり。いや、別に「そばはざるに限る、温かいそばなんか邪道だ!」という原理主義的な観点からではなく、単純に温かいそば用のダシ(以下「かけ汁」と言います。)に自信が持てなかったから。
亭主はたまたまのご縁があって(ネットでの検索も「ご縁」には違いない)、横浜で蕎麦修行をさせてもらったのですが、ざるそば用のつゆ(以下「ざる汁」と言います。)はともかく、かけ汁はやはり東西で大きく違います。しょうゆの淡口、濃口の違いだけにとどまらず、ダシのとりかた・材料も違う。
あえて習い覚えた江戸風で勝負するのもひとつの方法ではありますが、亭主自身が食べて「美味しい」「ホッとする」「納得できる」という味では残念ながらなかった。どうしてもしょうゆが強くて。これはもう東西の食文化の違いなのでいかんともしがたい。ともあれ自分で「なんだかなあ、これでは京都人にはそっぽむかれるなあ」と思う味で勝負をかける勇気はさすがにないのであります。
で、納得できるかけ汁ができるまで温かいそばは封印をしていたのでした。9月中に研究して10月くらいから出そうかな、と。長期予報では10月、11月も暑いらしいし。そんなに急くこともないかいな、と。
と思ってたら突然の秋。涼しいのを通り越して寒いくらい。
あ、こら、予定前倒しで温かいのんを始めねば。と、ベンチ入りしてた天麩羅そば、にしんそば、かけそばの3選手に急遽出場してもらいました。
かねて研究中だったウルメ、メジカ、サバをつかった秘伝のダシに淡口醤油、砂糖、みりんを合わせたかけ汁。
気候の変化に慌てて対応してメニューに追加したので調理手順はまだもたつくのですが、味はなんとか及第点ではないか。客観的な評価としては、温そばを頼んだお客さんの丼、いずれも汁がほとんど残っていないのでご満足いただいているのだろうと思います。
白状いたしますが私、かつては「原理主義」の信奉者だったのであります。
そばを本当に味わうなら冷たいざるに限る。それ以外、天ざるも温そばも邪道だ、くらいにマジで考えてました。
しかしながら、そばと天麩羅はまさに「であいもん」というかベストマッチって感じですし、そばは温めると甘みが活性化するんでしょうね、もう、実に美味い。
たしかにいい粉を使って打った蕎麦はまず第一に冷たいざるで食べたい、食べて欲しい、とは思いますが、そういう美味しいそばは温そばにするとこれがまた絶品なのです。冷たいざるそばだけに固執していたらそばの真価はわからんなあ、というのが今の率直な思いです。
生物(せいぶつ)だけでなく、そばの味わい方も多様性が大切ではないか、と温かい天麩羅そばを食べながらしみじみ思うのであります。
んじゃまた
亭主敬白