使用する大根は基本はやはり辛み大根、無い季節はしゃあなし青首大根、ということになろうかと思いますが、さて、どのように提供するか。
1,もりそば・せいろそば・ざるそばの上に大根おろしをのせるか、
2,通常のもり蕎麦につける薬味のうち、大根おろしだけを大量につけるのか、
3,深めの皿ないし鉢に蕎麦を盛り、大根おろしをのせて、ぶっかけとするのか、
大きくは以上3種類に分けられると思うのです。オペレーションの観点からみれば通常のせいろ蕎麦にわずかなバリエーションをつけるだけの方が(つまり1,2のパターン)楽には違いなかろうと思いますが、冷たいぶっかけ蕎麦というのはとりわけ夏には捨てがたい魅力を発揮するだろうとも思うのですね。
と、考えたときに京都でも身近なぶっかけおろし蕎麦である越前蕎麦を思い出したのです。
あ~、そ~いえば越前蕎麦ってどんな感じやったっけ。何遍も食べてはいるはずだけど、イマイチ明確なイメージを持ちきれない。
つゆはどのように提供されるのだろう?
最初からぶっかけて?
汁徳利で?
大根おろしはどうするの?
おろしたままで?水は切るの?
そばつゆと混ぜるところもあったような。(勝山市で食べたのはこの形式)
そもそも小鉢でのぶっかけ蕎麦だけど、蕎麦湯はどんな風に提供されるのだろう?
あれこれ疑問が浮かんで、これは改めて越前蕎麦を研究する必要があるなあと考えていたのでした。
本日雨でしたが車飛ばしてフィールドワーク。つまり蕎麦のはしごです。目指すは久々の今庄(いまじょう)。いつの間にか南越前町という面白みのない名前の町になっておりましたが。
節約のため高速は使わず山科からR161バイパスで湖西路を北上、マキノ町から国境(くにざかい)越えて敦賀、木ノ芽峠を越えて北国街道の宿場町今庄へ。
越前蕎麦を今庄で代表させることには異論があるかもしれませんが、とにかく今庄は蕎麦どころ、そして京都から一番近い越前蕎麦の本場なのです。
今庄駅前の「そば師 忠兵衛」はあいにく定休。しからばと同じく駅近くの「ふる里」へ。店内は各地の土産提灯を飾った民芸調。4畳程の小上がりと磨き古木を使った椅子テーブル席が6客。
迷わず「おろしそば」。600円。
φ14cmくらいの小鉢に比較的白い蕎麦(挽きぐるみではないのですね、ここは。)、その上に刻み葱と大根おろし、そして花かつお。麺量は少なめ。小鉢にはすでにつゆが張ってある。つゆは普通のざる汁よりも薄い感じだけど鰹の風味が効いていてほのかに甘い。きりっと引き締まり角の立った蕎麦をかき混ぜておろし、葱、かつお、つゆをほどよくまとわせておもむろに口に運ぶ。辛い。美味い。
あ、絶品。
車で移動。
農協の前の「ほっと今庄 今庄そば おばちゃんの店」へ。おばちゃんがやってる「おばちゃんの店」という名前のおそばやさんなのです。テーブル・カウンター合わせて30席程の店内では、蕎麦をはじめとした土産物も商ってはる。
迷わず「おろしそば」550円。
同じく小鉢に、今度はちょっと黒目の挽きぐるみの蕎麦。刻み葱と大根おろしと花鰹。事前投入されたつゆ。
基本パターンはこれであります。
ただ、ちょっと蕎麦がなんだか頼りない。「ふる里」さんの後だからよけいそう感じるのでしょうが、なんかもっさりした感じ。あ、そうか、氷水で締めてないんだわ。
それと大根おろしが全然辛くない。皮むきおろしか、あるいはおろしてからの時間が短かすぎたか。辛くない大根おろしは舌触りの邪魔になるだけの存在でしかないなあ、と極論的感想を抱いてしまいました。とはいえ、まあまあ普通においしいおろし蕎麦。いかにも近所のおばちゃんがやってる感じのアットホームな接客は嫌いじゃない。メニューも充実。ネットでの情報発信も熱心。
せっかくだからともう一軒。「土の駅 今庄」。
靴を脱いで畳の部屋へ。8畳と四畳半の二間の客室。
ガラスの向こうでおばちゃんが蕎麦を切っている最中でした。
ここも迷わず「おろしそば」525円。
基本パターン通りの蕎麦におからの炊いたんがつき、なおかつ本日はコーヒーデーとかでレギュラーコーヒー勝手に飲み放題なんだそうな。(デミタスカップですが)
ここはつくし会だったかな、そんな名前の営農グループのおばちゃんたちがやってるお店のようす。接客もなんや鈍くさいなあ、せやけど憎めんなあ、というもっちゃりした、土着のお店の感じでなかなかよろしい。(マネはできませんが)
共通して蕎麦湯は蕎麦とほぼ同時に湯呑みで出される。汁は蕎麦の鉢に入っている分だけしか提供されないから、蕎麦湯の白湯を飲むのかなあ?亭主は鉢に残った汁を蕎麦湯に入れて飲んでもみましたが。越前流蕎麦湯の作法は要確認。
店の人に効いてみましたが、大根おろしは特に水切りはしないみたい。かといってそうびちょびちょでもなかったのだから、絞ることまではしない、ということなのかなあ。
思うに越前蕎麦は、「蕎麦打ちできないと嫁にいけない」という風土のなかでお母さんたちが作り続けてきた土着の食べ物なんでしょうね。そういえば3軒とも打ち手は女性でした。武生とか福井とかもっと都会の方へ行くと蕎麦職人による手打ちが主流になるのでしょうが、今庄はまだプリミティブな形態を保持しているということでしょうか。(たまたま目にした事例からのみの解釈ですからあまり根拠はありません)
地粉を石臼で挽いて手打ちする。つなぎをあまり使わずに打った蕎麦を土地の野菜でもって食べる。スローフードというやつですよねえ。
ともあれ、腹もふくれましたが、越前蕎麦について割と明確なイメージを持つことができたと思います。辛い大根おろしと蕎麦、そして葱、鰹節。シンプルではありますがこれはこれで最強の「出会いもん」だなあ。
開幕先発メンバーに入れるかどうかは別として、越前風のおろしそば、かなり捨てがたいと思っているのです。
んじゃまた
亭主敬白